未来の住まいを考える

【第一回】 なぜ、電気の自給自足をしようと思ったのか。
自宅の敷地内に事務所を構える小島設計。
昔ながらの日本家屋である自宅と、5人の従業員が働く
事務所の光熱費はかなりのものでした。
それを10年前、 太陽光発電 システムを軸とした
オール電化に切り替え、さらに蓄電池を設置し、
電気の自給自足に挑戦しました。
その取り組みに至った思いから実際のところまで、
小島設計の建築士・小島智之が振り返ります。
“自分たちの使う電気くらい、自分たちで作りたい。”
小島:自宅は昔ながらの木造建築で、夏は暑くて冬は寒い。自宅に隣接している事務所は常に従業員がいて、遅い時間まで仕事をすることも多いので、光熱費は昔からかなりかかっていたと思います。
Interviewer:その自宅と事務所の電気を自給自足するという取り組みをされているようですが、いつ頃から始めたんですか?
小島:およそ10年前、2004年くらいでしょうか。
Interviewer:え! 震災前のそんな時期から?
小島:確かに、震災後改めて注目されるようになりましたが、それよりもかなり以前、まだ 太陽光発電 が出てきて間もない頃から注目していました。昔、太陽エネルギーでお湯を沸かす太陽熱温水器というものはありましたが、発電するという発想は当時とても斬新でした。
Interviewer:かなり勇気のいることだったのでは?
小島:代表である親父がある日、我が家に取り付けようと言い出しました。
今の時代、何も自給自足できなくなってきた暮らしの中で、せめて自分たちの使う電気くらい、自分たちで作っても良いんじゃないかと。何も作り出せなくなったら人間は退化していく一方だと。
Interviewer:震災前の時期からエネルギーや環境のことに関心が高かったんですね。
小島:建築の仕事に携わっていると自ずと考えることだと思います。建築士は暮らしを作る仕事。その暮らしが快適であるために、どうあるべきか常に長い目で考えています。自分たちの暮らしさえ良ければという考え方で家を建てることは出来ません。

「昔はウチも、畑でたくさんの野菜を育ていたし、鶏なんかも飼ってましたね。おじいちゃんの畑で泥んこになって芋掘りしたのはとても良い思い出です」、と、かすかに残る小さな自給自足の思い出話しに花が咲く。
太陽光発電 での取り組みに至るために3つの視点で考えました。 まず1つ目は、先ほども言ったように、自分たちの使う分くらいは自分たちで賄う、電気の自給自足に挑戦してみたかったからです。実際は、難しいことだとも分かっていましたが、湯水のように電気を使うのではなく、ちゃんと自分たちに必要な電気量を分かった上で生活するという意識が、環境を考える第一歩だと思いました。 2つ目は、災害時、電気が使えない中で右往左往することが恐怖と感じるからです。停電時でも、蓄電された電気を使うことができれば必ず何かに役立つはずです。 3つ目は、実は一番大きな理由かもしれませんが、人に勧める前に、まずは自分たちが実践し、本当に良いものかどうか確信を持ちたい。というところでした。
“工事から設置まで、いくらかかる?”
Interviewer:でも、当時は結構な出費だったのでは?
小島:そうですね。まだかなりの初期段階だったため、行政からの補助金があったと言え、以前の機器等は高く、オール電化の工事費も合わせると全部で450万円くらいでした。そのうち、25万程は補助金で賄いました。
Interviewer:一般的な家庭での目安となる金額はいくらぐらいですか?
小島:それが、設置する家屋の状態や範囲でかなり違います。足場を組めるのか、屋根等の補修が必要なのかと、実際に見てみないと金額が出せないのが正直なところ。
10年前の実績なので、今とは価格も変わっていて参考になるか分かりませんが、小島設計の場合の金額内訳はこの通りです。
Interviewer:なるほど、当たり前ながら設置や配線の工事にかかる金額もあるんですね。でも、かかる費用項目はだいたいこの程度ということですね。
とはいえ、結構な金額、反対意見は少しも出なかったんですか?
小島:やはり、母は少し躊躇していましたね。慣れ親しんできたガスでの炊事もなくなるし、オール電化となると何もかもが変わる。それに工事費用も大きいとなると…。ただ、我が家のガス台やお風呂も結構古く替え時だったし、ガスはプロパンガスのため毎月ボンベの交換も面倒。その上、ガス代は基本料金も高かったので先々のことを考えると電気だけの生活の方が断然良いと無理なく皆が理解しました。

「電気にもガスにもメリットとデメリットがあります。 それぞれのライフスタイル、それぞれの家の形に合わせて有効なモノを選択することが大切です。」
Interviewer:実際、ガスの方が良かったなと思うところはありますか?
小島:そうですね、強いて言えば…。「火」があるってことですね。もちろんIHクッキングヒーターでどんな調理もできますが、中華鍋をボウボウの火で振っている姿は見た目美味しそうですよね。「火」がもたらすあたたかさの効果もあると思います。
Interviewer:それはそうですね(笑)。 あとは、金額面ですが正直その頃と今では随分条件は違いますか?
小島:昔に比べると補助金は少なくなりました。やはり、取り入れる家庭が増えてきたからでしょうね。この先もっと減っていくと思います。それと大きいのが、電気の買取価格の下落でしょうね。平成24年度でいくと10 kWhの場合1kWhに対し48円で買い取ってくれたものが、今は27円。21.4%も下がっています。このシステム価格は、今後もっと下がっていくと予想しています。
Interviewer:取り入れるなら少しでも早い方が良いですね!
小島:もちろんそうです。ただ、良くなってきた点もあります。太陽光パネルが改良され、性能が上がってきたんです。それによって、昔に比べ発電量が12.8%も増えました。その上値段は当時の約65%、様々なメーカーが品質の良いものを作っているので、選択肢も広がりました。
Interviewer:安い機器も増えてきたんですか?
小島:ただ、価格を重視し海外メーカーのものを設置すると、保障がきかず結局メンテナンス費にお金がかかる場合があります。小島設計ではサポートの充実した品質の良い国内メーカーのみを扱っています。我が家の太陽光パネルも設置から10年経っても不具合はなかったのですが、メーカーの方がメンテナンスに来てくれ、少し取り替えた方が良い部分が出て来たと無償で交換して行ってくれました。自分たちでは気がつかない程でしたが(笑)。
最初に我が家に取り込んだ理由でもあるように、納得したものしか勧めたくないので、その場の金額だけで優位でも後々手間がかかるものは良しとしていません。
Interviewer:説得力がありますね。
小島:何しろ、自分たちが身を以て試してますから(笑)。

小島家のオール電化の台所。
朝昼晩と炊事場に立つお母さん。ガスのない暮らしは?と聞くと「調理台の掃除も簡単だし、火力の調整もボタン一つで楽だよ。」と笑顔で答えてくれました。

いつも昼食は事務所の隣の自宅で食べるとのこと。昔ながらの炊事場はオール電化とは思えない懐かしさ(笑)「ガス代は基本料金も高いから、オール電化になって売電したお金が私の口座に毎月はいるのよ。」と嬉しそう。
第二回へつづく