未来の住まいを考える

【第一回】建築士とデザイナー。僕らの原点、僕らが大切にしていること。
岐阜県で建築事務所、(有)小島設計の代表をつとめる一級建築士の兄・小島智之と、名古屋でデザイン事務所、(株)アーティカルの代表をつとめるデザイナーの弟・小島邦康。
みなさんに小島設計の雰囲気を感じていただくため、誰に頼まれるでもなく兄弟対談を決行。小島家の根底に流れる、仕事に対する思いを探る対談となりました。
取材が行われたのは弟、小島邦康が代表をつとめるデザイン事務所、(株)アーティカル。
事務所と言っても築50年以上経ったごく普通の日本家屋を自宅兼事務所として使った小さな事務所です。
デザイン事務所といえば白くてスタイリッシュな空間を想像される方も多いでしょうが、ここはそういう場所とは一線を画する斬新さ(笑)
しかし、この事務所(家)が小島家の大切にしているモノを大いに物語っているということで、ここでの対談を試みました。
弟:ま、こんな兄弟の対談、誰も読みたくないとは思うんですけどね(笑)
兄:それはもちろん理解しています。
おたがい有名人でもなんでもないしね。
弟:僕なんか一旗あがってるどころか、いつも頭を引っ掻き回して悶絶してるし。
兄:(笑)
でもね、小島家のたな卸し的な作業、つまり自分が育ってきた環境や、取り組んできた仕事、そういうのを全部ひっくるめて思い返してみることで、僕らがなぜこういう仕事をしているのか、何を大切にして来たのかとか、ぼんやりお伝えできるのではないかとね。
弟:どちらかというと自分たちの為と言うことだね(笑)
わかりました。じゃ事実と違う、カッコイイこと言い出したらすぐに注意してください。
兄:了解(笑)
“二人のものづくりの原点”
Interviewer:ではまず、お二人はどうして建築士やデザイナーを志したんですか?
兄:そうですね…
僕が物心ついた時、 小島設計 はすでに自宅兼事務所と言う形でスタートしていました。
ウチは本当に何の変哲もない、昔ながらの日本家屋なのですが、その二階部分の3分の2が事務所になっており、
残りの3分の1が子ども部屋になっていて、ふすま一枚隔てた向こう側にいつも父やスタッフさん達が2,3人居て、
ドラフター※に向かってカリカリ図面を描いていました。
※製図用に特化された製図台のこと。現在はパソコンで製図するのでほとんど見かけなくなった。
弟:仕事中、良くふすまを開けて遊びに行って、父さんに叱られたよね。スタッフさん達が良く遊んでくれて、楽しかった思い出があります。
兄:その頃、ドラフターに向かってあぐらをかいて座り、真剣な顔で黙々と図面を描く父さんの姿を見て、素直に「かっこいいな」と思っていたことを思い出します。
弟:僕も均一な線を描くためにシャーペンをくるっと回しながら、シュッシュッっと手際良く描いていく姿をボーッと見てるのは好きだったな。
兄:だから自然と「僕も同じ仕事に」と幼ながらに将来は建築士になると決めていたんだと思います。
Interviewer:邦康さんはなぜ建築ではなくデザインの道へ進まれたのですか?
弟:僕はですね…
話が飛ぶようですが、父さんは良くゴミを拾ってくる人で(笑)
多分建築現場で出たゴミなんでしょうけど、石コロだったり、角材だったり。
とにかく勿体なくて捨てられない性分なんですよね。
それを小学生の僕に磨かせたり、削らせたりするわけですよ。
随分ヘンテコな置物などを作らされました。
兄:驚くべきは、父さんがそれを今でも自宅の玄関とか事務所の入り口に堂々と飾ってるってとこだよね。
弟:今になって思えばそれは嬉しいような恥ずかしいようなことだけど、当時は「それ、いつまで飾っとくつもりなの…」とちょっと引いてた時期もありましたね(笑)
兄:なかなかのクオリティだからね。じっと見てると笑がこみ上げてくる。「忍耐」って書いてるけど、中学生の邦康に一番似合わない言葉だよ(笑)
“ゴミをお宝に”
弟:でもそれが「見立てる」ってことなんだと気がついたのは随分後になってからのことで。
実はデザイナーにとって一番大切なことって、この「見立てる」ってことなんですよね。
千利休が小さなお茶室にポンと見慣れた茶碗を置いて、「これ、すごくいいと思うんだけど、どう思う?」なんてやってたかどうかは知らないけど、そういう雑器を名器に変えてしまうような価値観が「見立て」だと思います。
兄:たしかに、ウチにはブランドものとかはまったく無かったけど、その手のゴミ、、いや「お宝」は今でもゴロゴロあるよね(笑)
弟:今まで20年近くデザインをしてきたけど、デザインってなんなんだ…って未だに良くわからないんです。でもちょっとだけ分かったことと言えば、自分の仕事は「クライアント自身の中に“既に在るのに、見逃されている価値”みたいなのをぐいっと引っ張りあげて光をあてるようなもの」ってこと。
目の前にずっとあったのに、ある視点を持つことで、
それが急に輝き出すってことは本当に沢山あるんです。
ヘタすると毎日あるくらい。
兄:それが「見立てる」ってことなんだね。
弟:だから僕は「ゴミの英才教育を受けたゴミデザイナー」(笑)
それが僕の原点で、唯一自信が持てるところかな。
兄:なるほどね。そういうゴミをお宝に変えるスピリットと、自宅兼事務所の独特なワークスタイルが僕らを形作ったと言えるのかもね。

弟の集めたゴミ、、ではなくコレクションを手に取る兄。ゴミの英才教育を受けたが故、弟は散歩や旅行をするたびに、思い出としてこういったものを持って帰ってはコレクションしています。 この一つひとつに家族や旅の思い出が詰まっているのだとか。 最近は水切り石(平らで水切り遊びができそうな石)を集めるのに凝っているそうです。
第二回へつづく